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VOICE 2022.10.10

日本語教室  | 顧さん

VOICE|日本語教室:顧さん

地球学校に現在通っている方、過去に通ったことがある方、地球学校で活動している方から話を伺うインタビュー企画、VOICE。

今回は中国の上海出身の顧(ぐ)さん。コロナ禍以前に地球学校で日本語レッスンをスタートし、帰国のためいったん終了。その後再び来日してからレッスンを再開し、現在も続けています。日本語のプライベートレッスンを長く続けている顧さんと、担当している藤澤先生に、長く続ける理由やレッスンの楽しさについて聞いてみました。

写真は顧さんの職場から見える美しい夜景を背景に同僚の方に撮ってもらいました。

(文責:中村美喜)

地球学校の日本語レッスン

- 初めて日本に来たのは、いつですか。

2015年です。会社の社内転勤でした。途中2年間は中国に戻りましたが、2020年に再来日しました。

 

- お住まいとご家族について教えてください。

住まいは横浜市中区です。4人家族で、妻と子どもが二人います。長男は19歳で、今年の10月にイギリスの大学へ留学します。長女は小学校5年生で、新学期が始まりました。藤澤先生とレッスンを始めたころは長女はまだ幼稚園児でした。

 

- 地球学校のレッスンをスタートしたのは、日本に転勤後すぐですか。

来日して3カ月後ぐらいです。それまでは自分で少し日本語を勉強していました。ひらがな、カタカナ、「おはよう」など挨拶(あいさつ)や簡単な言葉は覚えました。

 

- 日本語レッスンを始めたきっかけを教えてください。

僕はふだん、あまり日本語を使いません。家族とは中国語、会社では英語か中国語です。でも、仕事で日本企業との会議のときは皆さん日本語で話します。そのとき少しでも日本語がわかれば「自分だけ内容がよくわからない」という状況がなくなるなと思いました。また、毎日の生活で日本語が使えたら便利ですし。

 

- 自分で日本語教室を探したんですか。

会社の同僚がインターネットで探してくれました。曜日・時間に融通が利いて、会社と自宅の近くの教室だったので地球学校に決めました。

 

- 日本語レッスンを始めてから、何か変わりましたか。

仕事で日本人と話すときにだんだん日本語がわかるようになり、上達を実感できました。特に、会議で日にちや時間などの数字を英語に訳さずに直接理解できたのがうれしかったです。

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【写真】家族のために焼きそばを作る顧さん

 

- 日本では、お休みの日は何をしていますか。

家族と一緒に遊びます。ときどきバーべキューをします。いま一番大好きなことです。キャンプ場ではなく、バーベキューだけです。よく行く場所は、城ヶ島(じょうがしま)や三浦です。

 

- ほかに何か趣味はありますか。

趣味は釣りです。僕は船釣りが好きです。磯釣りはしにくいので無理です。フグがいっぱい釣れたことがありました。投げるとすぐにフグがかかるんです。フグしか釣れない。フグは釣っても食べられないですよね(笑)。でも船釣りは楽ですよ。釣れるときは、魚はよく釣れます。こんなに大きいタチウオが釣れたこともありました。

 

- 釣りは、だれと行くんですか。

会社の友達や、昔の同僚と行きます。釣り仲間は中国人が多いです。息子も船釣りが大好きです。横浜も海がありますし、船釣りもできます。本牧とか。

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【写真】釣り仲間と海で船釣りを楽しむのが趣味

 

コロナ前と後のレッスンの違い

 

- レッスンについて詳しく教えてください。

最初は対面レッスンでしたが、2020年に再来日した後はコロナ禍だったので、オンラインレッスンです。対面レッスンのときは初級のテキストで基本的な文法や語彙を勉強しました。オンラインになってからはニュースの記事を音読したり、ディスカッションしたり、そこで出てきたわからない表現について学んだりしています。

(藤澤)顧さんは、漢語の難しい熟語は得意ですが日本固有の和語、いわゆる「やまと言葉」は難しいんですよね。また、似ている表現でも使う場面が違う言葉もあります。例えばキャンプに行った話をしてくれたとき、天気がくずれたそうです。顧さんは「濁流になった」と話してくれたので驚いたのですが、よく聞いてみると「水がちょっとずつ増えて濁ってきた」程度でした。中国の方は母語の影響で、漢熟語で話す傾向があるので、印象の違いについて触れることも多いですね。

 

- 対面とオンラインで良い点、不便な点はありますか。

どちらでも僕は大丈夫です。それは、最初に対面レッスンをしていたからかも。先生も同じ藤澤先生だったので、どんな先生でどんなレッスンをするかわかっていたから問題ありませんでした。

(藤澤)初級レッスンは対面のほうがやりやすいので、スタート時は対面でできて良かったです。顧さんは、今では文法も覚えてきて、普通に話せるようになったので、ニュースサイト「NHK NEWS WEB」の記事を教材にしてディスカッションしていますが、オンラインのほうがサイトの画面共有ができますし便利なことが多いです。話せるようになってからのオンラインレッスンだったから問題がなかったのかもしれませんね。対面からオンラインへの切り替え時期としては良いタイミングでした。

 

- ニュースの記事は、どんなことに関心がありますか。

日本の政治、経済、文化です。例えば、中国には選挙のシステムがありません。藤澤先生に日本の選挙について教えてもらいました。

 

- 最近のレッスンでは、どんなことをしているんですか。

新しいテキストを使い始めました。有名企業のケーススタディでグラフを読みとる、商品開発を考えるなど、ビジネスパーソン向けのテキストです。コカコーラのケーススタディでは、日本と中国の食の文化の違いがおもしろかったです。例えば、日本人は冷たい飲み物が好きだけど、中国では温かい飲み物しか飲みません。そういった文化の違いについて、ホームページを見比べながら「中国で売りたい飲み物」について先生と一緒に考えました。

 

スタートから5年弱。長くレッスンを続けている理由は?

- 顧さんは日本語レッスンを長く続けていますね。

はい。もうすぐ5年です。先生のおかげで一歩一歩上達して話せるようになりました。コロナ前にJLPT(日本語能力試験)のN2レベルも合格しました。途中、中国に2年間いたのでブランクはありますが、日常生活の日本語はもちろん、今では会議の日本語も理解できるようになりました。相手は僕のために日本語でゆっくり話してくれます。反対に僕は英語でゆっくり話します。

 

- 帰国していた2年間は日本語を使う環境でしたか。

いいえ、仕事でも生活でも日本語は必要ありませんでした。それでも週1回くらいは、日本のニュースサイトを読むなど、自分で日本語の勉強を続けていました。

(藤澤)2年ぶりに顧さんにお会いしたとき、思ったより日本語力が落ちていなくて、むしろ上手になっていて、びっくりしました。

 

- 自分で勉強していたんですね。再来日後、もう一度レッスンをしたいと思った理由は?

藤澤先生は優しい先生です。日本語のレッスンだけではなく普段の生活で困ったことも教えてくれます。例えば、コロナ禍に自粛を余儀なくされたとき、どの程度なら買い物のための外出をしてもいいか、「ここまでなら大丈夫」という日本人の感覚が僕にはわかりませんでした。なので、藤澤先生の意見を聞けたことは大きかったです。

(藤澤)日本人って最初の緊急事態宣言のとき、法律や罰則がない要請レベルでも厳格に規則を守りましたよね。世界でもトピックになりました。これは日本人のベースにある「人に迷惑をかけない」精神や同調する文化が影響しているから。そんなニュアンスを説明しました。

 

- 文化の違いは、日本語を学ぶだけではわからないことがありますね。

はい。今も先生と一緒にニュースを読んでディスカッションをします。「日本人の観点」が知りたいんです。僕は家族も中国人で会社も外国人が多い環境ですから、先生の日本人としての意見を聞くのが楽しいです。

(藤澤)顧さんの鋭い質問に困ることもあります。日本では当たり前のニュースでも外国人から見ると不思議だったり日本特有だったり。私も中国の観点を知ることができて楽しいです。

 

- 約5年の間、レッスンをやめたいと思ったことはなかったですか。

やめようと思ったことはありません。忙しいとき、出張のときもレッスンは休みませんでした。メールで相談してレッスン時間を調整してもらって続けました。

(藤澤)中国の出張中は中国のアプリ「DingTalk」でレッスンをしました。Zoomみたいなものです。顧さんは一度やると決めたらやり続けられる人です。意思が強い人だから、長くレッスンを続けられるのだと思います。

 

- これからも藤澤先生と日本語のレッスンを続けていくんですよね。

はい。レッスンが楽しいですし、やめる理由がありませんね。仕事でもっと日本語がわかると便利だと思うので、今後は自分の言いたいことを自由に言えるようになりたいです。

 

- 最後に一言お願いします。

地球学校は先生が優しいですね。藤澤先生から聞いて知ったんですが、日本語がわからない子ども向けの無料の教室もあるんですよね(地球っ子教室https://chikyu-gakko.org/chikyukko/)。日本語のレッスンだけじゃない活動もやっていて、とても優しい組織ですね。外国人と日本人が助け合って人と人とのつながりを作れるあたたかい場所だと思います。これからもよろしくお願いします。

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【写真】今回はオンラインでのインタビューでした。

 

【顧さんのレッスン担当】藤澤先生から見て

顧さんは頭の良い方ですね。「レッスンが楽しい」というのも“fan”ではなく知的好奇心の“interest”の楽しさだと思います。初級が終わったころに「顧さんが勉強したいことって何だろう。普通にテキストを進めていくスタイルではないな」と考え、生教材を使うスタイルにしました。顧さんとの会話は私も楽しいです。私のほうこそ勉強させてもらっていることがたくさんあり「自分の日本語をきちんとしなきゃ」と振り返るきっかけになっています。

顧さんは自分の子どもの話もよくしてくれます。お子さんの学校はインターナショナルスクールなのですが、進学先として日本の大学や日本の学校制度の仕組みについて話したこともあります。そんな流れから地球っ子教室のことを話したら、とても共感してくれてうれしかったです。

【インタビュー後記】中村美喜(地球学校・日本語教師)

日々日本語レッスンに携わる立場として、学習者さんにできるだけ長くレッスンを続けてほしいと思っています。顧さんのようにコツコツとレッスンを積み重ねてこそ、本当に活かせる日本語の力がつくと実感しているからです。「継続は力なり」です。顧さんと藤澤先生のお二人から信頼関係の強さを感じさせる言葉が何度も出てきたのが印象的でした。お互いを尊重しあう関係だからこそ長く続いているのだなと感じました。