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VOICE 2020.07.25

地球っ子教室  | 富山里菜さん

VOICE|地球っ子教室 : 富山里菜さん

地球学校に現在通っている方、過去に通ったことがある方、地球学校で活動している方から話を伺うインタビュー企画、VOICE。

今回は、高校三年生のときから地球っ子教室で活動している富山里菜さんへのインタビューです。
富山さんは子どもと接するのが自然で上手。それを子どもたちは敏感に感じるようで、土曜教室に富山さんが来るとわらわらと子どもたちが集まっていきます。その理由を探ってみたくて、オンラインでインタビューさせてもらいました。
※今回のインタビュアーは、富山さんのことをずっと見てきた地球っ子教室のスタッフとともに2名で実施しました。

 

- 大学生ですね。いまは毎日、どんな生活をしていますか。

この状況なので、大学の授業は始まっているけど、授業はオンラインなので大学には行っていません。9月からは対面授業の予定だったのですが、どうなるかわからない現状です…。大学へ行ける日が待ち遠しいですね。

- 地球っ子教室を訪れた“きっかけ”を教えてもらえますか。

高2のころです。たまたま、お母さんの友人が日本語教師の勉強をしていて話を聞く機会があり、もう少し知りたいな、と思ったんです。もともと文章を書くのが好きだったし、「日本語教育」っていう世界があるんだ~って。それまでは何となく存在は知っていたけど、深く考えたことはなかったんです。

- 高校2年生のときに日本語教育の世界を知ったんですね。

はい、高校を卒業したあとの進路に悩んでいるとき日本語教育の世界を知って、とりあえず何かやってみよう!と思って行動しました。春休みにネットで探して、家から通えそうな場所で、自分の予定と合う曜日・時間帯で、と。高校生ですから、対象が大人ではなく子どもに、遊びながら接することができたらいいな~と。

【写真】高校生のときの里菜さん

 

日本人のお姉さんとして接してくれたらいいのかな

- 地球っ子教室に初めて来てくれたのは、いつでしたか。

高3の4月上旬でしたね。初めての日は、めっちゃどきどきしました。今も思い出します。一番インパクトのある時間でした。初回は見学のつもりで、ひょっこり出かけたんですけど、その日に参加していた子どもの人数が多かったこともあり、担当の方から「よろしくっ」てことになって(笑)早速、子どもの担当をやらせてもらいました。

- 初日は緊張しますよね。どんな子を担当してくれましたか。

小学校低学年のベトナムの子が2名、そのあと遅れてやってきた同学年の中国の子とともに3名でした。子ども三人とわたしで教科書を見ながら気になるところに取り組んだり、動物カルタを一緒にやったり。その動物カルタをやっているとき、けんかが勃発したんです(笑)

最初からいた二人は動物カルタの経験者だけど、あとから来た子はやったことがなくて…最初は経験者の子が丁寧に教えてくれていたんだけど、他の子の手札を無理やり取ってしまうことが続いたら、ついに途中で手が出てしまって…思わずわたしが「手を出してはいけないよ~」と止めたりしていたら、まわりの大人が入って対応してくれて…でした。

- 初日から洗礼を受けた感じですね。申し訳なかったです。

いえいえ、今でも忘れられない貴重な経験でした。まだ小さい子どもは、遊びながら日本人のわたしと会話するって、大事なことなんじゃないかなと感じます。子どもたちが気持ちよくそばにいてくれるんで、ありがたかったです。

- そんな風に思ってくれていたとは。もともと子どもに興味はあったんですか。

そういうわけでもなかったけど、一人っ子というのも影響しているでしょうか…。どうしていいかわからないながら、勉強が一番大切じゃないな、とは思っていて。大人の日本語教育とはちがいますからね。子どもたちが日本人のお姉さんとして接してくれたらいいのかな、と思っていました。

【写真】大学生になって初めて訪れた地球っ子教室での様子

 

- 初回の緊張のあとの2回目、3回目は、どうでしたか。

担当する子は毎回決まっているわけではないですけど、わたしは小学校低学年の女子Aちゃんと高学年の女子Bちゃんと、よく一緒に過ごしましたね。Aちゃんは無邪気で、性格が昔の自分と重なるところがあって、気持ちもわかるというか、、、

わたし、小4から学習塾に通っていたんですね。小学生ですから、やりたくない日もあるし、イライラする日も眠い日もありました。「今日はこの先生か」と思ったりもしました。子どもだって、コンディションの波もありますよね、普通に。そのときに大好きだった先生が「5分休憩したらやろうね」という声かけをしてくれたことだったり、わからなくてやりたくなくなったときは楽しいことを提案してくれたことだったり、っていうのを覚えています。そのことが強く印象に残っているせいか、子どもたちと接するときも、「あの先生だったらどうするだろう」と考えて接している気がします。どれぐらい厳しくしていいのか、ゆるくすればいいのか、わからないながらに様子を見ながら考えて接していました。

- 別のタイプのBちゃんとは、どうですか。

Bちゃんは一人で黙々やるタイプなので、かまいすぎないようにして見守り体制を心がけていました。悩んでいるようだったら少し声をかけて、静かにしていたら見守る、といった感じですかね。

- Bちゃんは初めての人は警戒するところがあるけど、里菜さんが自然体でいてくれたから良かったんじゃないかな

そうだといいんですが。Bちゃんも慣れてくると、そっと近づいてきて、すり寄ってみたり、ちょっとちょっかいを出してみたり、してくれるんです。コミュニケーションの仕方は人によって違うけど、伝わるものがありましたね。

- 無理強いすると閉じこもるタイプなのを理解して、うまく相手をしてくれたな~と思います。

いっしょにいるAちゃんがいたからというのもありますね。二人は年は離れているんだけど、妙にウマが合うのか、いい関係なんですよね。

この写真にあるキューブは、けっこうみんな好きでしたね。たしか、「県名をつくろう」「ことばをつくろう」と、年下のAちゃんが自分でルールをつくって、Bちゃんがその話にのっかってくれて(笑)

【写真】文字キューブとはこれのこと。正式名称は「もんじろう」。漢字のほかに平仮名や片仮名のものもあります。

 

勉強は大事。でも…それ以上に安心してもらえること

- ほかにどんなことをして時間を過ごしましたか。

Cちゃんとは多読の本を一緒に読むことも多かったです。Cちゃんが読んでいるとき、横並びっていうのか、自分も一緒に読みふけってしまって、自分にとっても楽しい時間でした。

多読の本は、子どもが一人で読む時間もあるし、読み聞かせをするときもありました。わからなかったことを聞かれたときは、英語で説明したりするときもありました。教えたくなっちゃうけど、聞きたくなっちゃうけど、それをやりすぎないようにして。

- 一緒に本を読んで、自分も楽しいって大切ですよね。

子どもたちは自分が読んだ本を「これ、おもしろかったから読みなよ」とか「これ怖いよ、読みな」って紹介してくれるんです。たとえば『耳なし芳一』とか。怖い本は人気があるみたいで、子どもは好きですね。絵もついているからか怖いってわかって、読む助けになっているみたいです。

- “日本語教育”という視点で得ることはありましたか。

あります。日本の学校に通っている子どもと小2の教科書にあるカエルの手紙の話を復習しようとしたときでした。子どもに「親愛なる、って、どういう意味?」って聞かれたんです。そういうのがいくつかあって、説明の難しさを感じました。ほかにも「親友って何?友だちならわかるけど…」って聞かれて、どういう風に説明しよう…と思ったとき「これが日本語教育かもしれない」と思いました

そのときに一番いいと思った説明方法を、いつもどきどきしながら、楽しみながらって感じですね。わかってもらえたのかな~って。初日だけじゃなくて地球っ子教室に来る日は毎回、今日は、だれだろうな~って。男の子か女の子かによっても違うし、年齢によっても違うから。同じ子でも日によってコンディションが違うから。

 

【写真】多読の本を横並びで読みふける二人

- ほかに大変だったな~っていうのは、どんなときでしたか。

そうですね、たとえば小6女子は思春期っぽい感じで難しかったです。「やりたくない、つまらない」って言われた日もあって、日本語教育というよりコミュニケーション面で難しかったです。でも、わたしが小6のころを思い出して、わたしも思春期はツンツンしてたんで、気持ちがわかるんで、基本的には本人がやりたいことをやって、その年代はおしゃべり好きだから、学校のことを聞いたりして。勉強は大事だけど、わたしを信用してもらうっていうか、「この人は大丈夫な人だ」って安心してもらえるようにお話をしました。

- 教室の前後は他の支援者と接したりする時間がありますよね。

はい、教材を一緒に片づけるほうはさせてもらっていましたね。教室前の準備のほうは、土曜日も学校があったので、ダッシュして向かっていたので、教室に直接行かせてもらっていました。

地球っ子教室が終わったあと片付けする時間が好きで、皆さん話しかけてくれたりするので、そういうときにコミュニケーションするのが楽しいなって。たとえば、「同い年ぐらいの息子がいるのよ」とか、大人と話す機会も好きな時間でした。

- 教室のあとは報告書を書いてもらっていましたよね。

はい、わたしは自宅に帰ってからメールで報告書を送りました。みなさんが送ってくれたのを見て、ちょっとずつ勉強する感じでした。報告書っていうと硬いイメージだけど、どんな教材の何ページをやりました、っていう事実だけじゃなくて、気持ちも書こうと心に決めていました。子どもがどういう状態で、どういうことを話してくれた、というようなことを書こう、と。

 

自分が子どものころの経験が活きている

- 地球っ子教室で過ごす中で、大学では日本語教育を専攻しようと決めた、と聞いています。

そうですね。どちらかというと、日本語教育というよりは日本語教育も込みで日本語を勉強したいという思いが強いです。日本語教育を含めて日本語を勉強したいなと思いました。もともと書くのが好きだったし、言葉っておもしろいな、一から勉強してみたいなっていう気持ちです。

いまは文学部の中の学科で、文学と日本語を両立して勉強していて、二年生になると日本語教育コースと日本文学コースに分かれるんですけど、日本語教育のほうに進もうかな~と思っています。

- 高校生でボランティアしている人って、同じ学校で他にもいましたか。

そんなに多くはないんですけど、友だちは学童と遊ぶボランティアをしている子はいました。けっこう行動派の友達は、ベトナムの病院にも行っていました。ベトナムに行って、ベトナム戦争の影響を受けた子どもたちとかかわるボランティアです。

ボランティアに興味がある人と興味がない人の差はありますね。大学に行くための調査書には、ボランティア経験を書く欄があるので、きっかけとして書けるようにしたい、というのもあるかと思います。

- ボランティアのきっかけがあるのはいいですね。里菜さんは自分の活動を友達に話したりはしましたか。

はい、いつもわたしが土曜日にダッシュで帰るので「何やってるの?」って話になって。まわりの友達には「土曜日はボランティアやってるから早く帰るの」って言って。わりと友達は「そうなんだ」って軽い感じですね。詳しい話をしたりしたことはないんですけどね。

【写真】その日に担当した子どものために言葉をまとめてくれたメモ

 

- 里菜さんは地球っ子教室に来る子どもたちのリアルな言動を「自分もそういうときがあったな」って振り返っていたけれど、今のように子どもを温かく見守る視点に変化したのは何かきっかけがあったんですか。

小学校高学年のとき、小学生ならではの女子の揉め事が、あるじゃないですか。わたし、一人っ子でわがままっ子だったので…そのとき、かな。学びました。自分だけじゃだめだな、と。幼稚園のころからずっと、わたしが世界の中心、みたいな感じだったので、小学校の人間関係の中で、人の気持ちを考えながら行動する力が身についたなって、思います。

- さっき話してくれた学習塾の先生の影響もあるのかな。

はい、あると思います。本当にその先生のことが大好きで、塾に行くのが楽しかったんですよね。その先生に出会えてよかったな、と思います。その経験があったからこそ、地球っ子教室の子どもたちと接するときに迷いながらも、何とかやってこれたのかな、と、思いますね。

 

【編集後記】

里菜さんと話して、彼女の魅力の要因を垣間見ることができました。自分の生き方に影響を与える大人との出会いが子どものころにあるって大切だと感じました。それを偶然の出会いではなく必然にしたいと思いました。地球っ子教室にやってくる子どもたちにも出会ってほしい、と。

地球っ子のAちゃんは「里菜さんみたいなお姉さんになりたいな」と思っているかもしれないですよね。地球っ子たちが成長して子どもと接する機会があったら、里菜さんが自分に接してくれたようにやってみよう、と思うかもしれない。里菜さんの過去の経験を現在の場で再現することは、未来にもつながる素敵なことだと感じます。

地球っ子教室の支援者は一人ひとりが個性的で魅力的で、影響力のある人たちです。日本人も、大人も、多様ですから、子どもたちにとっては自分と気が合う大人もいれば合わない大人もいるでしょう。とはいえ、学びはいろいろですから反面教師であっても学べることはあるはず、すべてが経験であり学びにつながるはず、と思います。里菜さんが言ってくれているように、日本語も、教科も、勉強は大事ですが、それだけではない居場所としても存在し続けたい、と再確認する時間になりました。