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VOICE 2026.03.1

地球っ子教室  |  漢字王決定戦の歩み

VOICE|漢字王決定戦の歩み(辻 雅代さん)

地球学校に現在通っている方、過去に通ったことがある方、地球学校で活動している方から話を伺うインタビュー企画、VOICE。

今回は、地球っ子教室で年に2回行っているイベント「漢字王決定戦」。この名称を2015年(平成27年)に商標登録してから、今年で10年を迎えました。イベントは2008年から開催してており、2025年10月には第35回を迎えました。そして次回は2026年3月です。

イベント「漢字王決定戦」は、毎回、子どもたちが楽しみにしている地球っ子教室の恒例行事。そこで、このイベントを始めた地球っ子教室の前担当理事である辻雅代さんに、「漢字王決定戦」を始めた思い、これまでの歩みを語ってもらいました。

イベント「漢字王決定戦」のはじまり

― イベント「漢字王決定戦」は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
第1回は2008年3月です。卒業生のお別れ会として「何かやろう!」という話になり、初めて企画しました。

― 第1回はどんな内容でしたか?
漢字のクイズやゲームを行いました。漢字の勉強は、子どもたちにとってあまり楽しいものではないですよね。だからこそ、クイズやゲームを通して親しんでもらおう、という意図でした。

当時、土曜教室の教材として、小学校で習う漢字すべてを5センチ角のカードに手書きしたものを作っていました。それがヒントになり、「このカードを使ってクイズができるのでは?」と考えたのです。
「2つの漢字のうち、読み上げた漢字と合っているのはどっち?」といった問題や、漢字を穴埋めして熟語を作る問題などを出しました。最初は漢字クイズだけでしたが、熟語の読み方まで丁寧に扱っていたため、時間はかなりかかりました。

― 問題はどのように出題していたのですか?
今はプロジェクターとスクリーンを使っていますが、第1回の当時は、まだプロジェクターがなく、漢字カードを提示し、紙と鉛筆で回答してもらっていました。

プロジェクターを使用するようになったのは、翌年の2009年9月です。キリン財団の助成金で購入することができました。漢字王決定戦のために申請したんです。今もそのプロジェクターを使っています。PowerPoint(パワーポイント)で問題を作ってスクリーンに映せるようになり、手作業での準備の手間が減ったことで、イベントを続けやすくなりました。


― その頃からパワーポイントを使っていたのですね。
そうですね。当時は、今ほどパワーポイントが一般的ではなかったと思いますが、スタッフや支援者の間には「できないことでも、まずやってみよう」という雰囲気がありました。子どもたちが、何も分からないところから挑戦している姿を日々見ていたからだと思います。アニメーションを入れてヒントの出し方を工夫したり、子どもたちの目線で考えられるようにもなりました。

 最初はプロジェクターのつなぎ方も分からない状態からのスタートでしたが、その経験は、コロナ禍でオンライン教室に挑戦したことにもつながっています。あのときも、最初は誰もZoomを知らないところから始まりました。まさに、スキルアップの歴史ですね。

― その後、問題構成に工夫はありましたか?
 プロジェクターの画像を見るだけでは飽きてしまうので、必ず「手を使う問題」を一つ入れるようにしました。パズルや、いろいろな形のカードを手元で組み合わせて作る問題です。手先が器用な支援者の方がいて、手作りのジグソーパズルもありました。

 漢字の問題は「読み方」「書き方」の両方を考えたり、算数や理科・社会など他教科をトピックにした問題も意識して取り入れていました。また、コロナ禍に始めたオンライン教室の「みんなの時間」や、学習教材(現もぐらんワーク)を作ったことで、今はアイスブレイク問題が第1問に加わるようになりました。

 昔も今も変わらないのは、最後に必ずビンゴを行うことですかね。


 

― 縦割りのグループで問題に取り組むのも、漢字王決定戦の特徴ですね。これは最初からですか?
はい。年齢、学校、日本語の習熟度が混ざったグループで取り組む形式は、最初からずっと続いています。チームで協力することも目的の一つでした。

ただ、第1回は「勝ちたい!」という気持ちが強く、日本語ができる上級生が、まだよく分かっていない下級生を叱咤激励する場面もありました(笑)。

その後、日本語が苦手な子どもや小さい子どもでも答えやすいように、他の子とは違う回答用紙を準備するなどの工夫を重ねてきました。試行錯誤の途中では、間違えて大勢の前で恥ずかしい思いをしないようにという配慮から、部屋の後ろに立てたパーテーションの裏に行ってスタッフに答えを耳打ちする、といった回答ルールにしたときもありました。

ほかにも、低学年や来日間もない子どもでも解答しやすい問題をつくって指名したり、グループの中に入った支援者が、そのような子どもが進行についていけるようにサポートしたりもしています。「できた!」という気持ちを、できるだけ多くの子どもに味わってほしいからです。

今では、グループで協力して問題に取り組むという空気がうまれ、上級生が下級生の面倒を見たり、普段はやんちゃな子が上級生の前では少しおとなしくなったりと、ほほえましい姿も見られます。


― 子どもたちは、イベントを楽しみにしているようですね。
そうですね。クイズに参加するだけでなく、最後に賞品がもらえるといったお楽しみも、イベントに欠かせないものとなっているんです。

お菓子配ったり賞品をもらえるようになったのは第2回からです。外国につながる子どもたちは、地域の子ども会に参加していないことが多いため、お楽しみ会のような要素も取り入れたいと考えたからです。

賞品は主に支援者が自宅から持ち寄ったものです。学年や男女、流行によって、子どもの好みは多様なので、毎回悩ましくもあります。種類が足りないときは、子どもたちが喜ぶ顔を思い浮かべて買い足しています。

イベントの最後には必ず子どもたちが真剣に賞品を選ぶ姿があります。一つに決めるのは難しいですね。選ぶものは必ずしも自分のためだけでもなく、ある男の子は「これは妹にあげるんだ」と女子が好きそうなものを選ぶ、という姿も見られます。おばあちゃんに、お母さんに、という子もいました。

― 漢字王決定戦は、毎年2回、開催しているんですよね。
はい。でも、2020年3月のみ中止になりました。コロナの影響で県民センターが急遽閉鎖されたためです。当時はまだZoomが使えなかったので、中止せざるを得ませんでした。2020年秋にはオンライン開催、その後しばらくはオンラインと現地のハイブリッド形式で行い、2023年10月に現地開催のみに戻りました。

地球学校を飛び出した漢字王決定戦 

― 漢字王決定戦は、地球っ子教室の中のイベントだけじゃありませんよね。
はい、2009年度は、他のグループや団体にも使ってもらえるように進めました。神奈川子ども未来ファンドの助成金を受けて、それまで4回行ってきた問題や新作問題をまとめて、2009年12月に「試作版」として外部の団体にも使ってもらえるようにしました。日本語教育学会でも紹介し、希望する団体に配布したりもしました。

【当時のブログ】

🔵漢字王決定戦情報(試作版) [2009年12月25日(Fri)

🔵日本語教育学会「漢字王決定戦」発表 [2010年05月23日(Sun)]

 当時から今も、外部からお声がけいただいたイベントなどで「漢字王決定戦」の問題を実施しています。「漢字王決定戦」をきっかけにして、外国ルーツの子どもたちが日本語に困っている現状を知ってもらうことにつなげています。

🔵かながわ国際ファンクラブ で「漢字王決定戦」 [2014年08月30日(Sat)]

🔵横浜大さん橋フェスタで「漢字王決定戦」 [2015年01月12日(Mon)]

🔵市民活動フェア2015で「漢字王決定戦」[2015年3月8日] [2015年03月08日(Sun)]

 

―漢字王決定戦キャラバン隊っていうのを聞いたこともあるのですが…
そうそう、外部の団体に出かけて行ってイベント漢字王決定戦を開催したんです。2014年のことです。漢字王決定戦を広く知ってもらおう、使ってもらおうと、横浜をはじめ、横須賀市、松戸市、西東京市、など、外国につながる子どもたちの学習支援を行っている教育機関や支援団体で実施しました。

🔵キャラバン始動 【漢字王決定戦】 [2014年11月09日(Sun)]

🔵キャラバンin西東京市【漢字王決定戦】 [2014年12月06日(Sat)]

2015年には、「漢字王決定戦」キャラバン用に、持ち運びに便利なコンパクトなプロジェクターを、ニッセイ財団の助成金(デジタル教材関係機材)で購入できました。同じ時期には、地域とのコラボレーションで、公立高校のボランティア部とつながったり、インド出身者が多い集住地区でイベント「漢字王決定戦」を開催したり意欲的に活動していました。

また、2017年7月には、横浜市の小学校の体育館で、地球っ子教室のイベントとして「漢字王決定戦」を開催させてもらいました。当日は神奈川県のNPO法人を応援している“ゆるキャラ”「かにゃお」も来てくれて、場を盛り上げてくれました。その様子は神奈川県のサイトでも紹介されています。

2017年11月17日金曜日  かにゃさんぽ(地球学校) 

↑ クリックすると見られます

対象を広げた漢字王決定戦

2015年には、あーすぷらざの近くにある小菅ヶ谷地域ケアプラザで、「親子漢字王決定戦大会」を開催することになりました。このときの親子の様子から、漢字王決定戦は、漢字学習以上に、コミュニケーション活動につながるイベントになることに気づかされました。

また、このイベントをきっかけに、ケアプラザの方から「高齢者を対象にしたイベント」もやってみてもらえないかと声がかかり、通算3回開催しました。脳トレのイメージです。中には90歳を超えている方がイキイキと解答する場面もあり、漢字王決定戦の多様な可能性を感じました。

このあと、親子交流会、高齢者対象イベントに加え、地域の高齢者と子どもの交流会としても3回イベント漢字王決定戦を開催しました。その経験から、漢字王決定戦は外国につながる子どもだけでなく、日本人の子どもや大人、高齢者も対象に開催できるという広がりを感じました。

また、今の小学生やお父さん・お母さんをリアルに感じる機会でもありました。お正月を題材にしたときには、日本人の保護者も今は「おせち料理」のことをよく知らなかったり、豊かな語彙力を持っている子どもは祖父母と同居していることが要因かもしれないと感じられたり、外国ルーツの子どもを対象としたイベントとは異なる発見も数々ありました。

地域ケアプラザでの漢字王決定戦は、コロナ禍まで続きましたが、2020年以降は中断し、イベントのあり方も変化する中で、現在まで再開には至っていません。

 

ゲーム漢字王決定戦の歩み― アプリから「もぐらんワーク」へ ―

― イベントだけでなく、ゲームも生まれたのですよね。
はい。子どもはゲームが好きですよね。私自身も好きです。ゲームであれば、苦手な漢字にも楽しく親しめるのではないか、という思いがありました。

神奈川県主催の、企業・大学・NPOのマッチング事業を通じて、IT企業の計装エンジニアリングさんと出会いました。当時、その会社では新入社員の実践研修としてゲーム制作を行うため、コンテンツを探していたのです。こうして2014年に最初の「アプリ漢字王決定戦」が誕生しました。でも、その後は、会社の事業方針の変化とともに、時代が大きく変化し、ゲーム製作の環境が著しく進歩しました。そのため、古い設定では遊べない状況に陥ってしまったのです。

🔵最初のゲーム「漢字王決定戦」 [Android]

🔵「漢字王決定戦」Googleplayのアプリに、ついに登場! [2014年04月01日(Tue)]

 

― それで、「もぐらんとあそぼう」で漢字王決定戦がゲームとして復活したのですね。
そうです。念願の復活でした。ベネッセ子ども基金の助成金をいただく前にも、何度か助成金による更新を試みましたが、費用面で難しく実現できなかったんです。

2021年にベネッセ子ども基金の助成が決まり、オンラインでも使えるオリジナル教材「もぐらんワーク」の作成が始まりました。その教材の一つとして、「漢字王決定戦」を形にしました。アプリではなくネット上で遊べるゲームとして復活し、新たな漢字クイズも追加できました。

監修はプロにお願いし、製作はつながりのある専門学校の学生さんに、授業の一環としてお願いしました。そのおかげで、費用を抑えることもできました。ゲームのプログラミングとともに、必要なイラストを同じ専門学校の学生に依頼することもできました。

漢字王決定戦のキャラクター「もぐらん」

― 漢字王決定戦には「もぐらん」というキャラクターがいますね。
イベントのチラシを作る際、文字ばかりじゃなくて、何かイメージキャラクターがあったほうがいいと考えて、動物のキャラを作ることにしました。何にしようかな、と思ったのですが、うちの庭によくモグラが出ていたので、これだ!って(笑)。

モグラには、「日本語ができなくて地下に潜むように生活していた子が、日本語を身につけて明るい地上に出てくる」というイメージを重ねています。

初代もぐらんは、地球っ子教室に縁のある先生のご友人の息子さんが描いてくれました。色鉛筆の手描きです。GIFでパラパラ漫画も作ったりして。名前は公募で決めました。

― 今の2代目もぐらんが誕生したきっかけを教えてください。
イベント漢字王決定戦をプロジェクターで画像を投影して行う中で、「デジタルでも使える動くキャラクターを作りたい」と思ったのがきっかけです。イベント中の画面で、「考え中」「始めるよ」など、進行に合わせたポーズをとったキャラクターがほしいとも思いました。2代目もぐらんは、横浜デザイン学院の外国籍の卒業生が描いてくれたんです。ご縁を感じましたね。

― 初代もぐらん二代目もぐらんとの違いは?
2代目もぐらんはサングラスをかけ、頭の上に土と草がのっています。土の中から出てきたばかりなので頭に土が乗っているんです。サングラスは、暗い土の中から明るい地上に出てきて目を傷めないように、というストーリーを、イラストレーターさんが考えてくれました。

「漢字王決定戦」商標登録のきっかけ

― 2025年、「漢字王決定戦」の商標登録を更新しましたね。きっかけは?
アプリを公開するにあたり、内部から声が挙がりました。10年前当時、世間では、関係のない会社が名称を先に登録し、権利を買い戻すためにお金を払わなければならない、といったトラブルが起こっている時代だったのです。

そのため、「漢字王決定戦」も、早く商標登録をしたいと思っていたら、商標登録を業務として扱う弁理士の方が日本語講師として地球学校にやってきてくれました。これは偶然ではなく必然だ、と感じました。それで厚かましくも相談したところ快諾していただき実現したというわけです。

あれから10年がたち、2025年9月、無事に商標権を更新できて安心しています。次の10年後は、どんな未来になっているのでしょう。

今後の漢字王決定戦は?

― 今後、漢字王決定戦はどのように展開していくのでしょうか?
ゲームやクイズを通して、「漢字はつまらない」という思いをなくし、楽しく取り組むきっかけになればと思います。とにかく嫌いにならないこと、これが大切だと考えています。
ゲーム版の漢字王決定戦も、画面の前で一人で遊ぶだけでなく、画面を見ながら支援者と話しながら、また、子ども同士が関わり合える形で展開していってほしいですね。

 

【インタビュー後記】金子聖子(かねこさとこ) 地球っ子教室担当理事

地球っ子教室の卒業生のための特別なイベントとして始まった漢字王決定戦。今でも、地球っ子教室内での毎年恒例の行事として続いているほか、寄付月間のオンラインイベントとしても毎年開催しており、日本各地や海外から、子どもから大人まで参加しています。地球学校内の新年会やノムキフなど、日本人のイベントでも活用しています。

また、長年の継続により、数々のコンテンツが蓄積され、経験の積み重ねを経て洗練された状態になっています。多様なコンテンツは、様々な目的や対象によって選んで使うことができます。これらはアプリ化を経て、今では「もぐらんワーク」につながっています。「もぐらんワーク」は、漢字王決定戦の集約ともいえます。

「もぐらんワーク」は、地球っ子教室はもちろん、他の学習支援教室や小学校の国際教室、大人の日本語教室でも活用されています。長年の知見を活かして作成された教材は支援者にとって教材選びの選択肢の一つとして、きっと役に立てると考えています。また、多様な教材は、子どもたち一人一人にいっそう合った支援の機会を生むことになるはずです。今後もより多くの方に使っていただけるように、周知に努めたいと思います。

【もぐらんワーク】https://moguran.chikyu-gakko.org/

改めて思うのは、漢字王決定戦はコミュニケーションのツールでもあるということ。漢字王決定戦で遊ぶことをきっかけに、だれかと話したり、協力したり、競ったり、喧嘩したりもして、次の何かにつなげていってほしいな、と思います。