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第165回 一気読み!『レインツリーの国』

Road
音になる前の音
周りに若者がいないので「若者のしゃべり方」が分からない、「今どきの若者の考え方」が分からないとお悩みの皆さま、「今どきの小説」で若者のこころの中を垣間見、共感してきましたので一部をご報告いたします。

これは『レインツリーの国』という名のブログを挟んで、聴力に障害を持った女性「ひとみ」と、健聴者の男性「伸」の恋愛物語です。ネット上で「思い」をやりとりするスピード感、言葉のラリーの躍動感、臨場感にいつの間にか巻き込まれ、楽しめます。我が青春のラブレターとは全く異なるメールの語彙が驚くほど「今どき」です。

『だって伸さん、「聞く」と「聴く」の違いって分からないでしょう?「聞く」っていうのは、耳から入ってきた音や言葉を漫然と聞いている状態で、健聴者はみんなこれができるんです。意識しないでも何となく会話ができるんです。「聴く」っていうのは、全身全霊傾けて、しっかり相手の話を聴くことで、私にはこれしかできないんです。』

あれっ?いつか学習者から聞いたことがあるようなセリフが。読み進むうちに、地球っ子の子どもたちや日本語教室の学習者の顔がチラチラしてきたり、「伸さん」が私自身と重なってきたり。。。「若者のしゃべり方」の他にも、「胸キュン・振り返り」の場面が次から次へと出てきます。

『ごめんな、君が泣いてくれて気持ちええわ』
最初は障害を頑なに隠していた「ひとみ」、やがて少し心が通じ合えるようになった段階で「自分の気持ちや辛さを理解してくれない」と苛立ちます。その時「伸」の昔の深い傷を告白されて、障害に甘えていた自分を悟り、泣きます。その時の「伸」のセリフです。この辺りでは読者はすっかり物語の世界に取り込まれているので、難なく今どきの20代の若者にワープでき、ある時は「ひとみ」、ある時は「伸」の中に自分を感じることができます。しかし、「使用語彙」「表現」が全然違います。

『聴覚障害者にしか聴覚障害者の悩みや辛さは分からない、だから分かり合うことなどできないと思っていた。だが、他人に理解できない辛さを抱えていることは健聴者も変わらないのだ。聞こえるのだから自分たちより悩みは軽いに決まっているなんて、それこそハンデのある者の驕りでしかなかったのだ。他人に痛みを晒そうとしない者だっているのだ』
と考える女性に、「ひとみ」は変化します。彼女は、最終的には(異文化を、或いは他の存在を)理解しあえないことを認めます。しかし後半の言葉で、これは決して「開き直り」でも「あきらめ」でもなく、前向きな気持ちであることが分かります。

障害者と健常者に書き分けられていますが、これは「あなたと私」の異文化理解の葛藤のお話であり、地球学校の基本理念である「みんな違ってみんないい」に繋がっていると思いました。 「ひとみ」と「伸」ほどの体当たりはできないけれど、学習者と意見や思いが食い違うときも、相手の気持ちを理解しようとする姿勢を見てもらい、こちらの意見もはっきりさせることは大切なのだなあ、と感じた「今どきの恋愛小説」でした。

参照
有川浩『レインツリーの国』新潮文庫 \420


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