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コラム ふしぎ日本語 - バックナンバー  

第164回 音になる前の音

こくみこ
音になる前の音

みなさんは競技かるたをご存知でしょうか。
上の句と下の句からなる百人一首の、下の句だけが書いてある取り札を並べて、上の句が読まれたら対応する取り札をいかに早く多く取るかという競技です。
そのかるたを題材にした漫画に「ちはやふる」というものがあります。友人に「すっごく面白いから」と薦められたのですが、確かにすっごく面白い!主人公たちが名人・クイーンを目指し奮闘するところにもちろん感動するわけですが、私は物語の中に出てくる「音になる前の音がある」「音の一歩先が分かる」という部分におや?と思いました。

名人ともなると最初の一文字を聞いただけで札をはじき飛ばすことが出来ます。それは「音になる前の音」を聞いているから。どういうことかといいますと、

  かくとだに えやは伊吹の さしも草  
  さしも知らじな 燃ゆる思ひを
                            ★藤原実方朝臣(51番)

  かささぎの 渡せる橋に おく霜の
  白きを見れば 夜ぞ更けにける
                            ★中納言家持(6番)

この札を取るには普通「かく」「かさ」まで聞かないとどちらの句か判断できません。しかし名人はこの2つの句の「か」は後に続く音の違いから別の音に聞こえる、つまり最初の一文字「か」を聞いただけで取ることが出来るというのです。

「カ」は無声軟口蓋破裂音です。「ク」も同じで、「サ」は無声歯茎摩擦音です。「カク」は調音点が同じですが「カ」の次に調音点が歯茎である「サ」を発音すると、「カ」の調音点もしくは調音法に少なからず影響を与えてしまうのかもしれません。それで同じ「カ」でも違う音に聞こえるということでしょうか。

あくまでこれはノンフィクションであって、実際の競技で選手たちがどう聞こえているかは分かりませんが、読手(どくしゅ)(札を読む人)が人間である限り、前にある音、次に来る音によって発音も変わってくる可能性はあります。そういった現象が顕著なのがみなさんもご存じ撥音/N/です。日本人は気付かなくとも、学習者には「サンタ」と「サンマ」の「ン」は違う音に聞こえるといいます。

競技かるたではこういう音を聞き分ける能力を「感じ」といいますが、そういう意味では学習者はほとんどの人が「感じ」がいいといえるかもしれませんね。百人一首を音声という分野からも取り入れて、いつか学習者にどういうふうに聞こえているか尋ねてみたいと
思います。

参照
「ちはやふる」 末次由紀 講談社
「日本語の音声入門」 猪塚元・猪塚恵美子 バベルプレス



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